Vol.054造形活動を通して、学ぶことの意味②
鑑賞活動を通したコミュニケーション力の育成と自己肯定感の高まり

2016.10
53_pic_01  美術教育の鑑賞活動では、これまで自分たちがつくった作品をお互いに見せ合う相互鑑賞や、また美術作品をみて、その作家や作品のテーマにふれる活動などが行われてきました。しかし最近では、より多様な鑑賞活動が学校現場で行われるようになってきています。「対話型鑑賞」と呼ばれるものは、その代表的な活動のひとつです。一つの作品を前に、子ども達がそこから見つけたことや感じたことを互いに話し合い、それぞれの見方や感じ方を共有していきます。正解を求めるのではなく、なぜそのように思ったのかと、作品の中にその根拠を求め話し合うのです。教師は一つひとつの発言を大切に汲み取り、子ども達の考えを、まるで一つのお話にでもするようにつないでいきます。このような鑑賞活動では、一人ひとりの見方や考え方が受け入れられ、友だちからも肯定的に捉えられることから、自己肯定感を高める活動としても注目されています。

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 鑑賞活動では、諸外国の著名な美術作品を最初からみるのではなく、まず子ども達の身の回りにある造形物を鑑賞の対象にするなど、子ども達を中心に、様々な表現に少しずつ触れられる工夫が大切です。また活動の内容についても、例えば絵画作品の鑑賞であれば、①「(作品の中の)形や色などの造形要素に気付く」段階から、②「(形や色で)何が描かれているのかがわかる」、③「(人やものなどが作品の中に)描かれている意図について考えられる」、そして最後に④「鑑賞活動したことで自分がどのように変わったのか。自分にとっての意味を見いだす」など、段階的に活動を設定をすることで、無理なく子ども達の見る力が育まれていきます。
 鑑賞活動の究極の目的は、「多様なみかたができる」ことにあります。視覚の時代を生きる子ども達が、これから出合う様々な対象に対して、多様な見方や考え方で接することができるよう、学年の違いなどを考慮した鑑賞活動の充実が望まれています。
東京学芸大学准教授
西村徳行
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