Vol.181教育者のための創造的マインドを拓く③ ―異才発掘プロジェクトROCKETを通して―
軌道から外れる勇気が新たな道をつくる

2020.04

 ROCKETに集まってくるExtraordinary(特異)な子どもたちは、自分の道を独自に作る勇敢な若者たちです。1/3の子は完全不登校の状態ですが、好きなことに専念できる不登校は実は特権階級なのです。そんな立場で常識を超えてはみ出し続ける彼らの実態の一部をご紹介します。凸凹を抱えながら突き進む彼らは、余人をもって代えがたいユニークな存在感を放っています。

 とあるロボット青年Aは、自由自在なロボットの造形ができます。読み書きに困難がある彼は標識の漢字も読めず、一人で街に出ると漢字の嵐にパニックになります。そのためいつも移動は誰かの付き添いです。しかしAの読み書き困難は、彼を読み書きによらない学びへと誘いました。ロボットの造形は読み書きに頼らずとも可能です。説明書の図解や動画を見れば造り方を学ぶことができます。あとは手を動かし試行錯誤を重ねていくことが自分の強みになる世界です。Aはそうして自分の強みを見つけ、今やロボットベンチャーから君のアイディアがほしいとオファーがかかるほどの腕前になりました。

 また別の青年Bは劇伴作家を目指しています。劇伴作家とはドラマ音楽の作曲家のことです。ドラマが好きなBはいつかドラマにつける音楽を作曲したいと、1曲あたり3時間ほどでバラエティに富む音楽を作曲し続けます。しかし、そうして曲のストックは貯まる一方でも肝心のドラマがない苦境に、Bは自ら脚本を書き、カメラを回し、複数の出演者を演じ、監督までするという常軌を逸した行動に出ました。一人でドラマを作ってしまったのです。ROCKETを密着取材していたテレビのプロデューサーがBの制作場面に立ち会った際にその技術力に絶句していました。

 青年Aにしても青年Bにしても、他のROCKETの子どもたちも皆自分たちの好きなことに没頭する中で道を拓いていきます。ロボットクリエイターも劇伴作家も、そのなり方にはマニュアルはありません。だからこそ、彼らは寝食を忘れるほどに自分の好きを追求して模索するのです。

 道は初めからあるわけではありません、歩き始めた者だけが自分の道を開拓していけるのです。不登校の増加とともに、そんな勇気を持つ若者が日本中に増えていくことは希望でしかありません。ROCKETはAI時代に好きに没頭するスターたちが輝く世界を広げるため、SPACE(Star’s Planet Activated by Curiosity and Enthusiasm)というコンセプトでロケットが宇宙に飛び立つよう彼らを社会に押し出していきます。自由闊達に飛び回るスターたちが闊歩する未来の社会は多様な彩りを放っているに違いないでしょう。

ROCKETの教室でもあるキッチン
東京大学 先端科学技術研究センター
人間支援工学分野 特任助教
福本理恵
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