Vol.242近代以降の文章をより理解するための音読実践

2023.02

1.はじめに
 中等教育段階において、古典は音読する場面が多いですが、近代以降の文章を取り上げるとき音読するかどうかは、指導者によってまちまちです。音読について、学習指導要領では平成10年度版より削除されています。また、中等教育段階の学習者は、音読を嫌がる傾向が多いと思います。その理由は、クラス全員の前で漢字の読み等を間違えることが怖い・恥ずかしい、音読することに精一杯になってその効果が見えないということが挙げられます。では、音読は本当に取り入れなくていいのでしょうか。

2.音読を用いた授業実践
 音読を効果があるものにするためには、授業者の工夫が不可欠だと思われます。どのような音読の工夫がどのような効果をあげるかを検証した授業実践を紹介します。
【教材】
川上弘美『離さない』(大修館書店 文学国語 文国704採録)
【音読の形態】
役割読みと呼ばれる形態。小集団(この小説では4人)で読む。地の文、「わたし」「エノモトさん」「人魚」の役となり、読んでいく。学習者の気づきが起こる都度、授業者が停止させ、気づきを共有する。
【効果】
・小集団ならば読めた
 クラス全体でなければ、読みを間違えても抵抗が無かったという学習者からの声が上がった。
・文章の特徴に気づくことができた
 ナレーター、「わたし」役を分けることで「わたし」の台詞に鉤括弧が付されず、地の文に「わたし」の台詞が埋め込まれていることに気づいた。また、会話が少ないにも関わらず「わたし」と「エノモトさん」の関係性の変化がわかるのはなぜかという疑問が生じた。このことから、表現の特徴やその効果について考える意欲が学習者に生じた。
・学習者同士の読みの違いに気づいた
 役割読みの特徴として、強制せずとも想像し演じて読む学習者が少なからずあらわれるが、その演じ方、表現の仕方に別の学習者が違和感を持つことがある。それは読みの違いからあらわれる。この違和感によって、学習者の読み(想像)の違いを比べ、なぜそのような違いが出るのかについて考える意欲が学習者に生じた。

3.おわりに
 音読は1人では継続しづらい活動です。また、複数人で音読するからこそ得る学びもあります。大切なのは声を出して読むことではなく、音読の目的は気づくこと、違和感をもつことです。学習者に気づきが起これば、その都度止めることが重要です。比較的短時間で行える活動なので、まずは軽い気持ちで導入してみるのもよいのではないでしょうか。

[参考文献]
文部科学省「補習授業校教師のためのワンポイントアドバイス集 7 音読・朗読」https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/003/002/007.htm

兵庫県立加古川東高等学校
倪薫