Vol.201CREDUON FOR TEACHERSのこれまで 今を生きる子どもたち ―VISION 200回記念特集―②
合唱界が混乱した2020年

 日本の子どもたちと合唱は、とても深い関係にあります。それは音楽の授業や校内合唱コンクールのみならず、年間を通して様々な行事で合唱を伴う場面が多いことから容易に想像できることでしょう。合唱活動がもたらす効果について、例えばL. Liveseyら(2012)の調査では、合唱を通して得られたあらゆる人とのつながりがコミュニティへの帰属意識を高め、それが精神的健康へとつながること、またそうした土台の上で、情操の豊かさや身体的健康、well-beingへとつながっていく可能性が指摘されています。また、「マイバラード」の作曲者である松井孝夫先生は、合唱活動のもつ教育的効果の一側面として、音楽的な学びだけではない、人間的な成長を促すことを指摘しています。

 複数人が同じ空間に集い、声を合せて歌うという合唱の活動は「あらゆる人とのつながり」が形成されていくことを起点として様々な利点が連鎖し、有機的に広がっていくことが言えると思いますが、今年はコロナによって、「複数人が同じ空間に集い」、「歌う」ということに制限がかかり、これまで同様の合唱活動はできなくなりました。合唱が感染リスクをもつ活動であると世界的に強く認知されたきっかけは、おそらくコンセルトヘボウ(アムステルダム)で起きた、『ヨハネ受難曲』(作曲:J. S. バッハ)の総メンバー130人中102人よりコロナの症状が発現し、計4名が亡くなったニュースと思われます。並行して、日本でも合唱活動の是非が問われ、NHK全国学校音楽コンクールや全日本合唱コンクールの中止が相次ぐ一方で、いかに合唱活動が再開されうるのかの検討も進み、6月29日に全日本合唱連盟より「合唱活動における新型コロナウイルス感染症拡大防止のガイドライン(第1版)」(11月26日に第2版公開)が出されたことで、ゆるやかに全国的な合唱活動の再開がなされました。その後も緊張感のある日々が続き、2020年11月12日に開催された政府の「第15回新型コロナウイルス感染症対策分科会」にて示された資料中の文言より、あらゆる演奏形態の中でも合唱が特に感染リスクの高い活動として解釈されうるような記載があったことについて、全日本合唱連盟が11月27日に要望書を提出するなど、まさに合唱活動に対する考え方が整理されていない状況と言えます。

 こうした混乱は世界的に「合唱ロス」をもたらし、リモート合唱を誘導したり、合唱にまつわるセミナーや勉強会が開催されたりと、これまで通りの合唱活動ができずとも、合唱とのつながりは保っておきたいとする動きを引き起こしました。

筆者が関わる合唱団のオンライン勉強会

 現在、合唱活動時における飛沫実証実験が行われ、根拠に基づいた感染防止策を模索する動きが続いています。しかし、様々な次元の不安が混在した状況が長期化することを予測したとき、私たち教育者は子どもたちのためにどのような視点をもつことができるのでしょうか。「合唱を通して何を育てたいのか」、これが今、問われています。

[参考文献]
L. Livesey et al.(2012). Benefits of choral singing for social and mental wellbeing: Qualitative findings from a cross-national survey of choir members, Journal of public mental health. pp.10–26.
聖徳大学, 聖徳大学短期大学部.「マイバラード・合唱の教育力~作曲者が語る」. https://talk.yumenavi.info/archives/1953?site=d,(参照 2020-11-29)

東京学芸大こども未来研究所 専門研究員
CREDUON FOR TEACHERS 編集長
小田直弥
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