Vol.061ノンバーバルを見つめなおす③
言葉になる前のイメージ

2016.12

61_pic_01  さて、突然ですがみなさんの中に風と話ができる人はいますか?では、リンゴと話せる人はいますか?葉っぱと話せる人は?

 何をファンタジーなことを言っているのか、と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、私たちはきっと、毎日”世界”とコミュニケーションをしています。例えば、思い返してみてください。朝、玄関を出て「あっ、もう冬がやってきたのか」と思ったとき、それはもう自然が語り掛けてきたメッセージをあなたが受け取り、会話をしているのです。リンゴが発している赤みや、あの芳醇とした香りを感じることで、もうあなたとリンゴは会話をしていますし、春の時分、枝先で青々とまぶしかったあの葉っぱが今や変色し、静かに土の上で寝ているのを見たとき、きっと、あなたは多くのメッセージを受け取っていると思います。そして、それはもしかすると、「きれいだな」と思い至る原初のイメージ、つまりは”言葉にするよりも前の段階に感じていたもの”と会話をしているのかもしれません。

 こんな視点に気づくと、私たちは毎日、非常に様々なものと無意識にコミュニケーションをしています。それと同時に、言葉でコミュニケーションされている内容は、本当はごくわずかなのかもしれない、ということに気づかされます。言葉になるよりも前に感じている何か、それは私たちがみなそれぞれ意識の裏側に持っている価値観であり、簡単に言うならば”個性”や”心”ともいえると思いますが、その抽象的なものが翻訳された1つの形がジェスチャーなどのノンバーバル表現であるともいえると思います。 ”言葉になる前のイメージ”を可視化し、有体化することがノンバーバルコミュニケーションの重要な考え方なのかもしれません。

 黒川(2004)は「ノンバーバルコミュニケーションは21世紀のキーワード」と述べることで人間を捉え直そうと提案していますが、こうしてノンバーバルを深く考えていくことで、私たちはもっと本質的に”人とつながる”ことが出来るのかもしれません。コミュニケーションの着目ポイントが言葉から音、身振り、そして心へと変化していくことで、相手と本当の意味でのコミュニケーションをすることが出来るのではないでしょうか。

 3回にわたってノンバーバルコミュニケーションを軸に記事を書いていくなかで、今回は普段見落としがちで、かつ身近なものにこそ大きな価値があることを再提案しようと試みました。ノンバーバルが映しだす1人1人の心の表現を見つめていくことで、そこに眠っている”小さいけれども輝き、十分に尊重されるべき個性”を見出すことができると信じています。

NPO法人東京学芸大こども未来研究所研究員
小田直弥
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