Vol.1742030年以降の社会に必要な教育を考える②
新しい学習観に基づく授業例とは?

2020.02

 前回は、OECDが提唱する新しい学習観「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)」を紹介しました。新しい学習観において子供たちに求められる力とは、自分自身の行動や考えに責任を持ちながら、周囲の人々とともに、身の回りの状況や社会をより良くするという目的意識を持って学んでいくことのできる力です。

 そうしたラーニング・コンパスの構成要素は主に次のようなものです。
 核となるコンピテンシー(知識・スキル・態度及び価値)、それらを十分に働かせ、複雑で不確実な社会に適応しつつよりよい未来を目指すために必要となる「よりよい未来の創造に向けた変革を起こす力」、その力を発達させるための学習プロセスである「見通し・行動・振り返り(AAR)サイクル」。ラーニング・コンパスは、これらの構成要素を身に付け十分に発揮しながらウェルビーイングに向かうための指針なのです。

 それでは、そうした要素は実際の教室の授業でどのように育成されるのでしょうか?
 OECDは世界各国から様々な授業例の動画を収集しました。東京学芸大学・次世代教育研究推進機構でも、この目的に即した日本の授業事例の動画を作成し、そのうちいくつかは、OECDのWEBページ上で公開されています(図1)。

 例えば、「よりよい未来の創造に向けた変革を起こす力」のひとつである「責任ある行動をとる力」の育成事例として、中学校家庭科の授業が採用されました。洗濯洗剤について、特徴を科学的に理解し、洗剤の適正な種類と量の使用が、洗剤の働きの点からだけでなく、地球環境保護の観点からも重要であることを生徒が学ぶという内容です。

 OECDからは、授業の活動や構成が、「責任ある行動をとる力」を育成しようとする教師の意図とよく合致している点が評価されました。日本の事例の他にも、オーストラリアの自然科学の授業において「対立やジレンマに対処する力」を育成する事例や「新たな価値を創造する力」の事例が取り上げられています。
 OECDは、ラーニング・コンパスは、各国のカリキュラムに対する絶対的な処方箋ではないと言います。それは、各国や地域に合わせて議論され、調整され、改善されることが可能な余地を持つ「進化し続ける学習の枠組み」なのです。
 そのコンパスを手に、私たち自身で、私たちの教育はどうあるべきかについて議論しなくてはなりません。世界各地から収集された様々な事例は、そのための貴重な示唆を与えてくれています。

京学芸大学 次世代教育研究推進機構
助教 田邊 裕子
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