Vol.137大切だからいつかどこかで…では遅い金融教育①
なぜ今、金融教育なのか?

 社会人に「あなたは金融教育を受けましたか」と問うと、「受けていない」「経済の勉強はしたと思うが…」「受けたかもしれないが記憶にない」といった返答がほとんどだと思われます。ただ、そう答えた人に、「金融教育は必要でしょうか」と問えば、「これからは重要だと思う」と言う人が多いはずです。これを読んでいるあなたはいかがでしょうか。

 返答の背景には、それぞれ事情があると推測されます。最初の質問の回答に現れているのは、「金融」を銀行など金融機関の役割と限定的に捉えている、あるいは経済と金融の関係がよくわからないといった現状です。さらには、教壇で具体的な金銭の話はしないといった学校文化に加え、経済や金融、家計や消費を学ぶ従来の社会科や家庭科などの教育が、用語の意味など知識の習得を重視していたことも影響しているでしょう。

 2つ目の質問の回答には、グローバル化や情報化が急速に進む中で各種の規制緩和が行われ、個人も企業も常に変化と競争にさらされると同時に、自己責任の名のもとに収入や利益の差が拡大したことによる不安感が反映されていると思われます。さらには少子高齢化による年金の心配など、今後の生活に危機感をもち、収入や資産の有効活用や保全が切実な問題となってきたことも、金融教育に対する期待や必要感を生んでいるようです。

 上記のような現状や問題を踏まえた金融教育とは、どのような教育でしょうか。様々な企業や業界団体などが、各々の得意分野に重点を置いた金融教育を展開していますが、その全体像を把握するには、日本銀行に事務局を置く金融広報中央委員会による次の説明がわかりやすいと考えます。

 金融教育は、お金や金融の様々な働きを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育である。

 ここで注目すべきは、お金や金融の働きを理解することが最終目的ではなく、暮らしや社会について考え、生き方や価値観を磨きつつ、公私の福利のために主体的に行動できることをめざしている点です。また、お金や金融の働きには、消費者教育、経済教育、キャリア教育、環境教育等と関連する部分が多くあり、学習者の主体性を引き出しながらそれらとの効果的なクロスオーバーを図る教育が期待されています。生き方と密接に結びつく金融教育の充実は、自己実現と社会改善において大きな可能性を秘めているのです。

図 金融教育の目標と4つの分野
(『金融教育プログラム[改定版]』p26図表3)
東京学芸大学教授 大澤克美
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