Vol.162「オリンピック・レガシ―」②

 前回のオリンピックは2016年リオデジャネイロオリンピックでした。
このオリンピックでも、日本の選手はたくさん活躍しました。このときの快挙の1つは、「陸上競技男子400mリレー」を上げる人が少なくないでしょう。
 山県亮太、飯塚翔太、桐生祥秀、ケンブリッジ飛鳥の各選手が、強豪を相手にアジア新記録である37秒60で銀メダルを獲得したことは記憶に新しいはずです。
 他の強豪国と比較して、走力やフィジカルで劣るとされる日本チームです。確かに、当時の日本のチームの中には100mを9秒台で走る選手はいませんでした。それなのになぜ2位になることができたのでしょうか。

 TRACの代表コーチである大西正裕さんは、コラム「日本代表バトンパスの秘密」(http://trac.tokyo/2016/08/20/535)で、以下のように述べています。
 大西さんは、大きな理由の一つに「バトンパス」を挙げています。日本は、多くのチームが採用する「オーバーハンドパス」ではなく、「アンダーハンドパス」を採択し、その精度を上げてオリンピックに臨みました。これは2001年からの取り組みであったと言います。

 ちなみに多くのチームが使っている「オーバーハンドパス」は、パスのときに2人が腕を伸ばしながらトップスピードどうしでバトンを受け渡すパスワークです。
 この方法は、お互いが腕をいっぱいに伸ばし合うため、走らなくていい距離が4.5m~6m生み出されるとのことです。
 他チームと同じ「オーバーハンドパス」をやっていては勝つことはできないと日本チームは考えたのです。そして、「アンダーハンドパス」の研究に取り組むようになったのです。

 どうして「アンダーハンドパス」に目を付けたのか。その理由が目からうろこなのです。「オーバーハンドパス」は、バトンをもらった走者は、腕を思いきり伸ばした姿勢から走り出すことになります。無理な姿勢をつくることで、僅かな時間のタイムロスが生じることを見つけ出したのです。科学技術の進歩でその「僅かなタイムロス」を見つけることができたのでしょう。

 一方で「アンダーハンドパス」は、お互いが腕を振りながらバトンパスをします。このことでスピードの減少を最小限に抑えることができるのだそうです。
 腕を思い切り振りながら、それこそ映像で見ると「いつの間にか」バトンパスが行われるのです。日本チームは、「アンダーハンドパス」によって「わずかな時間のロス」を解消することにチャレンジしていったのです。
 「オーバーハンドパスが最高の技術」という常識を問い直し、トップスピード同士でスムーズなバトンパスを行い、次走者が無理なくバトンを引き継いで走り出すという課題に向かい、科学的な検証結果から改良を重ね、繰り返し練習することでその精度を高め、そして世界で2位になるという快挙を成し遂げたのです。

東京学芸大学 健康・スポーツ科学講座 教授
鈴木 聡
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