Vol.1732030年以降の社会に必要な教育を考える①
OECDが提唱する、2030年に向けた新たな学習観「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)」とは?

2020.02

 2030年以降の社会は、どのような姿になっていると思いますか?
 少し想像してみましょう。たとえば、AIは現在よりもっと身近な存在になり、日常生活に浸透している可能性が高いです。また、自動車の自動運転は実用的な段階に進み、それほど珍しいものではなくなっていると予測されています。
 さらに、情報化・技術化が一層高度に進展し、現在においては非現実的と思われるサービスや製品が実現されていたり、今にはない仕事が多く出現していたりするだろうと言われています。

 現在学齢期である子供たちが生きていく社会とは、そのように複雑で不確定性の高いものなのです。それでは、その子供たちに対する教育は、果たしてどのようなものであるべきなのでしょうか?

 OECDが2015年に立ち上げた「OECD Education 2030プロジェクト」では、こうした問いへの答えが模索されてきました。もともとOECDは、90年代末に「キー・コンピテンシー」を策定し、それがPISA(国際学力調査)の土台となるなど、世界的に大きな影響を与えてきました。新しいプロジェクトでは、そのコンピテンシーを時代に合わせてアップデートし、なおかつ実際の教室で行われる授業にどう落とし込むかが議論され、今年、プロジェクトのフェーズ1の成果として「OECDラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」が公表されました(図1)。

 このラーニング・コンパスは、評価やカリキュラムの枠組みではなく、近い将来に必要となるコンピテンシーの種類に関する大きなビジョンであるとされます。これは特に、子供たち自らが、変革を起こすために、目標を設定し、振り返りをしながら、責任ある行動をとる力を発揮するために重要となります。

 OECDは、子供たちが自分自身で「私たちの望む未来」であるウェルビーイングへ向かうために使う「学習の枠組み」として、ラーニング・コンパスを位置づけています。
 もちろん、子供たちは一人一人、立っている場所や、持っている知識や経験が異なります。そのため、歩く道のりやスピードもそれぞれ違うでしょう。それでも、たどり着こうとする「よりよい社会」という目的地は共有されているため、その方位を指し示すコンパス(つまりコンピテンシー)が重要になるのです。OECDの提案するラーニング・コンパスは、そのような新しい学習観を表していると考えられます。

東京学芸大学 次世代教育研究推進機構
助教 田邊 裕子
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