Vol.134コンピテンシー・ベースの教育で求められる「評価」①コンピテンシーを育てるという課題

 OECDやスイス連邦の主導のもと行われてきたDeSeCo(コンピテンシーの定義と選択:その理論的概念的基礎)プロジェクトでは、従来の知識や技能の習得に絞る学力観には限界があり、むしろ学習意欲から実際の社会参加に至る広く深い能力観、いわゆる人の根源的な力に相当するコンピテンシーに基礎づけられた教育の重要性が提言されました。

 具体的には、従来の読み、書き、計算の力といった基礎的学力に加え、「どんなコンピテンシーを身につければ、人生の成功や幸福を得ることができ、社会の挑戦にも応えられるのか?」「その時代や状況に応じてどんなコンピテンシーが重要となるのか?」といった視点から、教育の専門家に加え、経済や政治、福祉を含めた学際的領域の専門家と、12の加盟国との協議によって概念定義が行われました。その結果、図に示す通り、キー・コンピテンシーと呼ばれる理論的要素を、社会的に異質な集団での交流に関わる「異質な集団との交流」、自律的に活動することに関わる「自律的な行為」、道具を相互作用的に活用することに関わる「対話への道具活用」の3つのカテゴリーに分類し、さらに、これらの要素の核心として、反省性に関わる「省みて考える力」を置く定義を示しました(Rychen & Salganik、2003、立田監訳、2006)。

図 DeSeCoの全体枠組みにおけるキー・コンピテンシー
(Rychen & Salganik、2003、立田監訳、2006)

 私たちが生きることには、他者と交流すること、自ら行動すること、道具を用いることを伴います。さらに、現代を生きることには、他者と交流するだけでなく社会的に異質な集団の中で他者と交流すること、行動するだけではなく自律的に行動すること、道具を用いるだけではなく相互作用的に用いることを伴います。そして、これら3つの活動には全て、生活への思慮深いアプローチ、すなわち、経験から学び、自ら考え、自明とされていることを問い直すことの基盤となる「省みて考える力」が必要だとされています(Rychen & Salganik、2003、立田監訳、2006)。

 コンピテンシーに示されるような、実社会へと開かれた、領域横断的な能力をいかに育てたらよいのでしょうか。この課題は新しいだけでなく、個人の人生の幸福や円滑な社会生活を視野に入れた、包括的な課題といえます。

 本連載では、「省みて考える力」に含まれる技能に相当するメタ認知と、知識、スキル、態度、価値観の全てを含むコンピテンシーを育てる学び方につながる自己調整学習を取り上げ、実践の手がかりを示します。

東京学芸大学准教授 梶井芳明
参考・引用文献
Rychen,D.S.,& Salganik,L.H.(Eds.)(2003)Key Competencies for a successful life and a well-functioning society.Cambridge,MA: Hogrefe & Huber Publishers(立田慶裕(監訳)(2006)『キー・コンピテンシー−国際標準の学力をめざして』明石書店)
梶井芳明(2017)「コンピテンシー・ベースの教育に向けて:メタ認知と自己調整学習から考える」羽野ゆつ子・倉盛美穂子・梶井芳明(編著)『あなたと創る教育心理学:新しい教育課題にどう応えるか』pp.144-155、ナカニシヤ出版
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