Vol.244日常の事象における探究活動

2023.05
 特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議審議のまとめ(2022)では、小学生にして大学レベルの数学にも理解を示す児童などがいることが示されました。そうした児童の特性として、優れた能力をもっている反面、環境に馴染めないことによる困難も指摘されています。
 特異な才能のある児童生徒及びその関係者を対象としたアンケートによると、授業がつまらないため登校しぶりに陥るなどの状況もみられていると報告されています。全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を目指す昨今において、見過ごせない状況だといえます。
 現行の小学校学習指導要領算数編(2017)では算数・数学の学習過程のイメージとして次の図1が掲載され、日常の世界の学習過程と数学の世界の学習過程が相互に関わり合って展開することが示されました。令和3年度東京都教育研究員が教員を対象に行った調査では、日常のサイクルにおける活用・意味づけの過程があまり重視されてこなかったことが明らかにされています。(図1の四角囲みは筆者)
図1 出典:文部科学省 教育課程部会 算数・数学ワーキンググループより
図1 出典:文部科学省 教育課程部会 算数・数学ワーキンググループより
 活用・意味づけとは、端的に述べると、得られた解決結果を元々の事象に当てはめてその意味を考えたり、活用したりすることです。それにより、算数の学びが日常の事象に生きることを実感したり、日常における探究課題を見付けたりすることにつながると考えています。筆者は、こうした一連の活動に、特異な才能のある児童に適した学びの可能性があると考えています。詳細は以下で説明します。
 教科書の単元末には、発展的な内容として日常の事象を取り上げたページなどが存在します。本稿では教科書を活用して事例を説明していきます。
新幹線の座席配置についての問題場面です。 まず、実際の新幹線の座席配置図を配布し、自分が一緒に旅行に行きたい人たちとどのような配置で座れるのかを考えます。各自が考えた配置を共有していくことで、1人掛けの人が出ないことに気付きます。何人組になっても1人掛けの人が出ないのか、どうして1人掛けが出ないのか、など各自の問いが生まれてきます。 こうした問いは、本単元の偶数、奇数、倍数、約数を用いて場合分けをして説明ができます。
①すべての偶数は2の倍数だから表わせる
② 3も表わせる
③ 3以上のすべての奇数は 3+偶数 だから①②によって表わせる
学びを日常の文脈で活用することで日常生活に算数が生かされていることを実感できます。さらに、「2の倍数と3の倍数で1を除いたすべての自然数を表せそうだ」という解決結果を指定席という事象に当てはめて再び考えたとき、一部の座席が既に埋まっていたらどうか、新幹線のグリーン車や飛行機の各クラスも一人掛けはでないのか、など様々な発展が考えられます。
 算数が日常の文脈の中でどのように活用されているのかを考え、学んだことを自分なりに探究していく可能性を秘めた日常の事象における活用・意味づけは、 特異な才能のある児童も前のめりになり、イキイキと学習する瞬間を作り出すことができるのではないでしょうか。

引用・参考文献
•特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する 学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議(2022).特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 審議のまとめ~多様性を認め合う個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の一環として~審議のまとめ
•藤井斉亮他(2019).新しい算数5上 p107.東京書籍
図1 出典:文部科学省 教育課程部会 算数・数学ワーキンググループより
•文部科学省(2016).教育課程部会 算数・数学ワーキンググループ.算数・数学ワーキンググループにおける審議の取りまとめ
•東京都教育委員会(2022).令和3年度 教育研究員研究報告書.p7

港区立芝小学校
中嶋広大
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