Vol.154エジプトと教育③
国際協力の第一歩―「自分に合った支援」を考える

2019.07

 個人でも始めることのできる国際協力と言えば、募金やボランティアなどがあります。国際協力の第一歩として、まずはこれらを通して「関わってみる」ということが大切なのだと感じます。そしてその先、もう少し貢献度の高い活動を考えるときにはお金や人といった資源の移動だけでは不十分です。国際協力の文脈における貧困とは、単純に資金が不足しているということのみならず、生きていくうえで必要なサービスを得られないこと、将来の選択肢が限られていることも含みます。つまり、資源の提供も大切なのですが、現状を少しでも良い方向へと転換できるような具体的なノウハウ、社会の醸成に寄与できる活動を共に遂行できる人材が求められています。そして、それらを契機として現地の人たちが主体的に自分たちの環境を育てていくことができるよう、持続可能な体制づくりへと繋げていくことも重要です。

 昨今日本では、「スーパーボランティアおじさん」としてとある大分県の男性が注目されました。彼のポリシーの1つに「対価は受け取らない」というものがありましたが、世の中には国際協力のプロとして生計を立てている人たちもいます。それが「国際協力師」と呼ばれる人たちです。

 「国際協力師」の提唱者である山本敏晴氏は「生活するのに十分な給料をもらい、プロとして国際協力を持続的に行っている人々」を国際協力師と呼んでいます。

これには国連等の国際公務員やJICA職員等の政府機関職員、JICA専門家等の政府機関専門家、NGOスタッフ、開発コンサルタント会社職員が該当し、近年はこの他にも、現地の情報を発信するインターネットサイトを運営し、そこで得られる広告収入等で生活をする新しいタイプの国際協力師が活躍しているそうです。

 昨年、NHKが主催する第45回日本賞「クリエイティブ・フロンティアカテゴリー」にて最優秀賞を受賞したゲーム「わたしを葬って~シリアからの脱出」は、シリア難民の実体験をもとに作られたもので、ゲームのプレイヤーはシリアとのリアルな時差やインタラクティブな関わりにより、主人公の女性ヌールが抱える不安や恐怖をダイレクトに受け止められるよう工夫が凝らされています。こうしたゲームを通して世界の現状に触れ、自身の中で世界の定義を再構築していくこと、そしてそのような環境下で生きる人たちと向き合う機会を作ることも国際協力の1つとして位置づけることができるのかもしれません。

 「国際協力」という言葉は、そのスケールの大きさについつい圧倒されてしまうのですが、募金等の資源提供から、ボランティアや国際協力師の仕事、ゲームを通した発信など、幅広い活動を含有する言葉だと整理すると、今、私にできる支援とは何かと考えるきっかけになるのではないでしょうか。1回きりではなく持続的に関わることができる「自分に合った支援」を考えることの大切さに加え、現地の状況に向き合い、よりよい未来を創るための意志ある支援が求められています。

東京学芸大こども未来研究所
専門研究員 小田直弥
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