Vol.039自然体験 × 授業

2017.10

 いわゆる自然体験というものが、子どもの成長にとって価値があるものだという考えには、多くの大人が賛同するところでしょう。しかし、その考えはどこか感覚的であり、なぜそう言えるのかについて具体的なところはあまり語られないように思います。私は、自然体験の価値のひとつは、今の生活の中に“当たり前”として溶け込んでいる知への気づきであると考えています。

 カシオ計算機株式会社が運営する「WILD MIND GO!GO!」というウェブサイトでは、「ナイフ1本で火起こし! きりもみ式発火に挑戦」や、「五寸釘を七輪で熱してナイフを作る!」など、様々な自然体験と、それらを子どもと一緒に行う際の詳細なノウハウが紹介されています。例えば、「『カラムシ』の繊維で紐を作ろう」というページでは、我々大人にとっても“当たり前”と化している紐というものを、自然にある植物の茎から作り出していく方法が6つのステップで説明されており、それにかかる時間やその活動を行う際の注意点、さらには、紐作りに適したカラムシという植物の基本的な知識までも網羅されていて、すぐに子どもたちと活動できるよう配慮されています。

 このような活動を学校で行う際には、「どの時間に行うのか」ということがハードルになることがしばしばあります。実施しやすいのは、林間学校などの校外学習場面でしょう。しかし、私はこのような活動こそ、日頃の授業の中に積極的に取り入れるべきであると考えています。なぜならば、そうすることによって、体験的活動と学問的知識とが有機的に結びつき、互いに相乗効果を生むものになっていくからです。

 例えば、このサイトで紹介されている「空き缶でウッドガスストーブを作る!」という活動は、小学校高学年理科の「ものの燃え方」の単元の中に組み込むことができます。仮に、活動を単元後半に持ってくれば、ものが燃えるためには空気が必要であるという知識を、ストーブ作りで確かめることができるし、逆に活動を単元前半に持ってくれば、ストーブ作りの試行錯誤の中で、ものが燃えるためには空気が必要であるという仮説を立てることが可能になります。ストーブという、先人によってある程度完成させられた“当たり前”には、科学的知識が詰まっています。ついつい、知識偏重になってしまいがちな学校の授業は、このような活動を組み込むことによって生活のリアリティが吹き込まれ、単元全体が生き生きとしてきます。

 「WILD MIND GO!GO!」では、ここで紹介したもの以外にも、既存の授業単元と相性のいい良質な活動実践が多く紹介されています。

 我々教師の役割は、子どもたちがより豊かに学べる場をコーディネートすることです。授業の中身をすべて教師が作り上げることは、教師の負担の面でも、それに伴う質の面でも得策ではなく、「WILD MIND GO!GO!」のような豊かなソースを活用して、子どもたちにとって最適な学びの場を構成していくことが、これからの教師に求められている授業作りなのではないでしょうか。

東京学芸大学附属世田谷小学校教諭
木村翔太
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