Vol.029学びに向かう力を引き出す体育における探求型授業デザイン①
「まだ味わったことのない世界」を目指して、子どもたちと

2017.05

 「主体的・対話的で深い学び」が喧伝される昨今。体育において学びが深まっていくためには、その運動がもつ本質的なおもしろさに触れ、「さらによいもの」を目指そうとする子どもたち自身の動力が欠かせません。その意味では、「深い学び」は「深めがいのある中身」がなければ実現しにくいともいえるでしょう。

 以前行った跳び箱の実践では「空中局面における身体表現の広がり」に跳び箱運動の本質的なおもしろみがあると考え、それをすべての子どもが味わえるように、教材を台上前転に絞り込みました。そして、単元を通して「台上前転をもっと大きくしていく」ことを探究の柱とし、その中で、首はね跳びに発展することまでをも想定しながら単元を構想しました。

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図1 子どもたちの学びの過程
 身体表現の雄大さ、美しさといった魅力は、子どもたちをも惹きつけます。台上前転ができるようになり、「台上前転を大きくしていく」ことを目指し始めると、一気に「前のめり」になる子どもたち。膝伸ばしの台上前転に始まり、腰伸ばしの台上前転と続くと、次第に「首はね跳び」のような動きになる子どもが現れました。

 「なんか浮いてる!」「これは大きいね!!」周囲の子どもたちは興奮気味。「ブリッジ跳び」と名付けられたその技にどうやったら近づけるのか。「やっぱりまずためないとダメだね」「おなかを上に突き出す感じなんじゃない?」「腰が反っているか、ちょっと見てくれない?」など、目指す運動イメージのポイントは何か、それができるようになるための課題は何か、どうすればそれが解決できるのかについて、自ら問いを生成し、他者と語り合い、学びの履歴を振り返りながら、探求する子どもたちの姿がそこにはありました。そして遂には、先生も教える存在から学び合う仲間へと変わっていました。

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写真 モデル児童の演技と集団思考
 運動の得手・不得手、先生と児童という垣根を越えて、「もっと大きく!」という「まだ味わったことのない世界」を、みんなで目指したあの時間が、今でも心に残っています。

東京学芸大学附属世田谷小学校教諭
久保賢太郎
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