Vol.113中学校における指導場面①
待つことと褒めること

2020.10

 私は普段たくさんの中学生と接しています。その多くは楽しそうに友達との時間を過ごしたりしながらも、一方で自分の考えや意見をうまく言葉にできず、自分の内側で悶々としている生徒もいます。

 ある日、私が生徒に歌を教えていたときのことです。生徒がこれまでと違う歌い方をしているのを聴いて、私は「これまでとは歌い方を変えたけれど、どうしてこう歌いたいと思ったの?」と尋ねてみました。その生徒は普段から言葉数の多い生徒ではなく、この時もすぐに言葉を発しようとしませんでした。ただ、様子を見ていると何かを考えているように見えました。そこで私は、生徒が自分の力で考えを伝えてくれるのを待つことにしました。この時は生徒の中で考えがまとまるまで20分ほどかかりましたが、なんとか生徒なりの考えを伝えてくれたので、時間をかけてでも自分の言葉で表現が出来たことを褒めることにしました。

 こうしたことが何回も繰り返されていったあるとき、生徒への問いかけから発話までの時間がだんだんと短くなっていることに気がつきました。最初は「自分の考えをうまく整理できない」、「自分の意見に自信がない」など、様々な要因があったのでしょうが、そうした生徒に対して「待つこと」と「褒めること」は自分の意見を自分の言葉で伝えられるようになるための助けになると思いました。

 今回の例は、まず「ゆっくり考えていいんだよ」という生徒にとって安心できる環境を教員側が提示し、生徒の考えの正否ではなく、プロセスを評価したことがポイントだったと思います。この生徒のように、自分の意見を整理して伝えることに課題があったとしても、その多くは、何も考えていなかったり、考えることを諦めているわけでもないと感じています。生徒一人ひとり、自分の考えをまとめ、伝えるために必要な時間は異なるとは思いますが、まずは主体的に問いと向き合う姿を評価し、成功体験が積みあがることでの生徒の変化を丁寧に支える視点を大切にしたいです。

私立北鎌倉女子学園中学校高等学校
音楽科専任教諭 木川翔
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