Vol.124心理師からのアドバイス2②
若手教師のレジリエンス
レジリエンスの獲得と教師としての成長

2021.3

 突然ですがお尋ねします。全国の公立学校において、年間に何人の教員が精神疾患を理由に休職しているかご存じでしょうか。感覚的なもので構いませんので、下の選択肢からお選びください。

(1)593人  (2)720人
(3)1192人  (4)5000人
(5)53万人   

 文科省の調査をみると、五千人ほどの教員が精神疾患を理由に休職していることが分かります。予備群を考慮するとさらに多くなるでしょう。そこで、どうすれば過度に心を病むことなく教育活動を行い、さらに成長していけるのかを「レジリエンス」の観点から考えてみましょう。
 まず、「レジリエンス」の意味です。精神的な健康に関する概念として心理学でも研究され続けており、およそ次のような意味で用いられます。

〇困難な状況に直面しても心の健康を維持する力(適応力)
〇一時的に不健康に陥っても立ち直り、時にその経験を成長に生かせる力(回復力)

 他にも「しなやかな心(柔軟性)」と説明されることや、「ストレス理論」「認知理論」との関連でも紹介されます。定義はここまでにして、次に若手教師が経験する困難を挙げ、レジリエンスと成長について考えます。

〇学校ごとに異なる風土文化をもつ配属先に慣れる。
〇小学校では1年目から担任となり、学年・分掌の仕事もある。中学では部活指導もある。
〇教師としての理想像と実力が一致しない。
〇同僚や保護者は年上である。
〇多様なニーズをもつ子供への対応(不登校、いじめ、非行、虐待、発達障害、中途退学等)。

 「環境適応」「仕事量」「自己イメージ」「管理職・同僚関係」「子供・保護者対応」、これらの困難の中で、失敗や挫折が訪れた時に、何が人を支え、成長に導くのでしょうか。

 私自身、スクールカウンセラー(SC)になりたての頃は、今よりも不慣れなことが多く、心理職は自分1人で心細く、「正解が見えない」「誰の役にも立ってない」と申し訳ない気持ちで、将来性を疑う日々が続きました。それでも気軽に悩みを話せる友人や、私の長所や成長可能性に目を向けてくれる人がいました。
 人の支えによる安心感や将来への期待感があったことで「SCはオワコンだ」とふてくされずに済みました。そして、「そもそもSCの意味とは?」と基本へ立ち返り、問題状況を見直し、「同じ問題意識を持つ人や成功事例はないか?」と探し、「まず何ができるのか」「次はこう働きかけよう」と改善へ取り組む姿勢を保つことができました。

 主体的な自己研磨は必要です。しかし、レジリエンスが社会的要請や職務的必要からだけでなく、人の支えのもとで鍛えられるのならば、「助けを求める力」や「周囲のサポート力」、「組織体制」なども合わせて教師の成長を考えて欲しいと思います。

公立学校スクールカウンセラー
臨床心理士・公認心理師 野村龍太
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