Vol.115学習支援の立場からのアドバイス①
学習の困難を伴う子どもたちへの教材づくりのポイント

2020.11

 日々多くの子どもたちと接する機会の多い私たち教員は、その特性の多様さに驚かされ、時には戸惑うこともあります。ここでは、私が指導への戸惑いを感じた子どもについてお話をさせていただきます。
 みなさんは学習障害(LD)という言葉をご存じでしょうか。これは、全般的に知的遅れはないものの、話す、聞く、読む、書く、計算する、推論することの中の特定のものを習得することが著しく困難な状態のことを言います。私が通常学級で担任した2年生のA君は話すことや聞くこと、読むことは問題なく行えるのですが、書くことへの困難さが顕著にみられる子どもでした。具体的には、「漢字を正しい画数や書き順で書くことが難しい」「平仮名の字形も解読が難しいほど整わない」などといった様子が見られました。そこで、主に以下のような指導を行いました。

〇板書ノートコピーの活用
 A君は板書をノートに写すことに多くの時間がかかり、授業のほとんどをそれに費やしていました。そこで、A君が使用しているものと同様のノートに板書計画を立て、必要に応じてそのコピーを渡しました。このことによって文字を書く時間を短縮することができ、授業の主な目的である思考活動や技能の習得活動へ参加することができるようになりました。

〇字形の特徴の具体化
 A君は文字を大まかに捉えることはできましたが、細部まで理解することが困難でした。そこで、「『ま』は下に〇が1つあって、その上に横棒2本だね。」「『よ』は下に〇が1つあるけど、上の棒は1本が半分だけだね。」といったように、間違えやすい文字について〇や棒の場所や数を一緒に確認する作業を行いました。このことによって、少しずつ解読可能な字形に近づいてきました。また、漢字も大まかな形しか捉えることができないので、「横棒は3本」といったように具体的な数を示すようにしました。このとき、正しい書き順にはこだわらず、正しい字形の理解を重点目標としました。

 上記の2点に共通することは、A君に身に付けさせたいことを明確にしたことです。また、これらの方法はA君に限らず学級全体指導でも活用することによって、他の児童にとっても有効な手段となりました。
 このA君との出会いによって、人それぞれ違った特性があり物事の理解の仕方やそのスピードは様々であること、多くを求めず時には限定することの大切さを知ることができました。そして、戸惑いや困難さを感じることの中には、学ぶべきことがたくさん隠されていることも知りました。これからも、ピンチを肯定的に捉えチャンスに変えながら、可愛い子どもたちのために指導を行っていきます。

東京都中央区立久松小学校
田城有加里
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