Vol.147教師のきく力とコーチング

2022.08

【主体的・対話的で深い学び】
 2017年度に幼稚園教育要領、2018年度からは小学校以降の学校種で順次学習指導要領の改訂が行われた。「何を学ぶのか」という3つの資質・能力とともに「どのように学ぶのか」という観点として「主体的・対話的で深い学び」が示され、子どもたち同士、教職員、地域の人との対話がこれまで以上に重視されている。
【対話で重要なこと】
 子どもたちが対話を通して学ぶ時、自分の思いや考えを話す力と同時に相手の話をきく力も重要であり、教師はその両方を育てていく必要がある。そのために本稿では、教師の「きく力」について考えたい。
 「自分の思いや考えを話そう」「相手の話をよくきこう」という言葉をかけるだけでは子どもの対話力は育たない。幼児期から、自分の話を受容的にきいてもらう経験を積み重ねることで、自分の思いや考えを話そうという意欲につながるし、どうすれば伝わるかという工夫も生まれるだろう。自分の話をきいてもらえるからこそ、相手の話もきこうという態度が育つ。教師が「きく力」を高めることで子どもたちの学びはより豊かで深いものになるのではないか。
【きき方を学ぶ機会は少ない!?】
 唐突だが、「きき方」を学んだことがあるだろうか? 学校教育や教職課程において、「伝え方」や「教え方」について学ぶ機会は多いが、「きき方」を学んだ経験は少ないのではないか。
 筆者は、幼稚園での保護者対応で様々な事案を経験し、どうすればよいのかを模索する中で、「コーチング」に出会い、体系的な学びの中から「きく」ことの重要性を学んだ。コーチングとは、対話を通してクライアントの可能性を引き出し、クライアントの目標達成や成長を支援するプロセスである。
 コーチは話をきいたり、質問したりして、クライアント自身の望みや自己資源、目標に向けて必要な行動の選択肢などへの気付き促し、クライアントが自ら行動することを支えていく役割を担う。
 クライアントを子ども、コーチを教師と置き換えた時、主体的・対話的で深い学びとの親和性が高く、これからの学校教育に積極的に取り入れられるとよいのではないかと強く感じている。
【先生自身もきいてもらう体験を】
 コーチングを学んで大切だと感じたのは、「自分自身がきいてもらう体験を重ねること」だ。教師は、話をきくことが多い一方で、自分の話をじっくりきいてもらう機会は少ない。教師自身が「きいてもらう体験」をすることで、「きき方」のスキルだけでなく、「きくこと」の良さを知っている教師として、子どもたちに対話力を育むことができると考える。
 学校教育の現場でも「コーチング」が取り入れられ、教師がコーチングを受けたり、学んだりする機会が増えることを願っている。

[参考文献]
宮越大樹『人生を変える!「コーチング脳」の作り方』ぱる出版
西垣悦代・堀正・原口佳典『コーチング心理学概論』ナカニシヤ出版

東京学芸大学附属幼稚園
町田理恵
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